マルチブランドの日本酒造り
当社のお酒は以前は「福正宗」ひとつでございましたが、現在では「黒帯」、「加賀鳶」、おしゃれ感覚の「風よ水よ人よ」など7つのブランドを持つマルチブランドの酒蔵となっています。おのおののブランドにはそれぞれにブランドコンセプトがあり、「商品」、「お客様」、「デザイン」、「味わい」、「流通」のそれぞれを明確にわけております。
例えば「黒帯」は「主義の酒・酒が主役」の商品であり、お客様は「本格的な日本酒党」、デザインは「伝統的な日本の美」、味わいは「味わい深い辛口・特に燗がいい」、対象飲料店は「高級料亭、割烹などこだわりのある店」となっているのに対して、「加賀鳶」は「粋の酒・和の酒」で「若い世代の日本酒党や地酒志向の方」に「粋」なデザインで「おおらかで個性的な」味わいを「居酒屋など個性を持ちたい店・お酒の味にこだわる店」で飲んでいただきたいと思っております。
真にお客様の求めるお酒を提供することが使命と考えている当社では東京の銀座5丁目西五番街にもアンテナショップを設けて、多様なお客様の好みを察知することに努めています。昨年は総てのお酒の消費量が対前年マイナス3.5%という中で、焼酎、リキュール類が伸びた分余計に日本酒の落込みがあり、低落傾向になかなか歯止めがかからない状況の中で、日本酒メーカーには工夫が求められています。
吟醸酒がもたらしたもの
最近多くの日本酒党に愛好されている吟醸酒にも功罪があります。その影響のひとつとして「日本酒の範囲を狭めた」ことが指摘されています。吟醸酒はしばしばワインに例えられる「フルーティーな香り」が身上ですが、それを出すために白米を35%(中には25%)にまで精米して、普通のお酒の15℃に対して10℃くらいの低温発酵させる技術が開発されました。「YK-35」という吟醸酒造りの方程式が作られて全国に広まったために、酒蔵ごとの個性の差は少なくなりました。
ちなみに上記の方程式でYは酒米の最高峰と呼ばれる「山田錦」、Kは熊本酵母(醸造協会から協会9号酵母として昭和43年に販売)」、35は精米を35%まで行なうことを意味しています。精米は35%までが実用上の限界と考えられています。それ以上お米を削るともろくなって欠けてしまい、「心白」と呼ばれるお米の芯に到達するからです。市販されている吟醸酒で25%(中には23%も)というのは数字の上でのアピールでしかありません。
精米において数値だけが強調されることには問題があります。精米されたお米の粒の形が重要です。お米の元の形をのこしている真精米と形が変わってしまった見掛け精米との差を「無効精米」と呼び、精米の品質を表す大事な指標になっています。近年、福光屋では外部に精米を委託しているので、精米された白米の受入れ検査を重視しています。
純米蔵宣言
福光屋は2001年
9月に「純米蔵宣言」をして全商品を純米造りに切り替えました。「純米造り」とはお米(精米歩合70%以下・2004年に精米歩合の制限は無くなりました)と水だけを原料にして、基本に忠実にお酒を造ることです。現在全国で作られている日本酒の約90%は醸造アルコールや糖類が添加されているのですが、純米造りのお酒は原料のお米の味わいがそのままに生かされ、さらりとした口あたりで、自然にふくらむコクと喉ごしのキレが特長です。福光屋が目指す理想の味わいは「うまくて軽い」であり、それを実現させるために「純米蔵」は必然の選択です。
思えば、日本酒の歴史には大いなる混乱がありました。明治維新から戦中、戦後の国による厳しい税制や酒税を確保するための保護政策の中で正しいお酒が見失われてきました。昭和18年には醸造アルコールの添加が認められ、昭和24年には戦後の米不足を補うために大量のアルコールやぶどう糖を添加することで純粋に米だけで造る場合に比べて三倍の量のお酒ができてしまう「三倍増醸酒」が許可されました。
三倍増醸には酔えればいいという緊急避難的な政策としての効果がありましたが、日本人の生活が豊かになり、酒を飲む目的が、酔っぱらうためから生活を楽しく豊かにするへと変化するにつれ「日本酒離れ」が進み、本来の日本酒の良さが忘れられる原因を作ってしまいました。「純米造り」を宣言することでようやく日本酒の戦後を終わらせることができたとの感慨を強くしています。(つづく→)
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