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端唄「縁かいな」
日本酒、四季おりおり。

第36回(2008.7.23 updated)

端唄「縁かいな」
夏の涼みは両国の 出船入船屋形船
 上がる流星星下り 玉屋が取持つ縁かいな

 梅雨が明けるといよいよ花火の季節である。花火を唄った曲は数多いが、端唄の「縁かいな」をまず挙げたい。有名な曲であるが、文字で書いてみるとこれだけ、唄っても1分と少々の短い曲である。そのせいか、さまざま替え唄が出来ている。その一つに、芝居がかりのこんな唄もある。

石川五右衛門釜の中 お染久松蔵の中
あたしとあなたは深い仲 最中の中にも餡かいな

端唄は江戸の座敷唄で、もとは長唄に対する短い唄として「端唄」の名がある。文化・文政(1804〜1830)のころに流行し、弘化・嘉永(1844〜1854)のころが全盛であったという。その後、小唄、うた沢、俗曲が派生して、端唄と区別されるようになった。その区分は必ずしも厳密なものではないが、「縁かいな」は端唄、と覚えている。

 花火と夕涼みは夏の夜の風物詩である。その気分は小唄の「上げ汐」によく描かれている。ちょっと長いが紹介しておきたい。

上げ汐につれて漕ぎ出すかずかずの 船はおも舵とり舵やぁい
向う鉢巻片肌ぬいで 気負いを競う江戸っ子が月と花火に浮かれつつ
急いで漕ぎ出す川開き
(売り声)ええ、西瓜に真桑瓜はようがすかな 玉子や玉子 豆や枝豆
(口上)東西 写し絵の儀は手許をはなれ あかり先の芸当にござります
れば お目まだるき所は幾重にもご容赦の程 乞い願いあげ奉ります
従いましてここもとご覧に入れまするは 日本は三景の内奥州は松島の
態(てい)とござい
ちょいと来なせ ええ押すな押すな 邪魔だ邪魔だ そうれあがったぞ
玉屋ァ と褒めてやろうじゃないかいな

 「玉屋ァ」とくれば「鍵屋ァ」と対になるべきであるが、唄のほうはもっぱら「玉屋」である。

  橋の上玉屋玉屋の人の声 なぜか鍵屋と言わぬ錠(情)なし

…と、鍵屋に同情した狂歌が残っている。

 もとは萬治二年(1659年)、日本橋横山町に店を開いた「鍵屋」が江戸花火の草分けとされており、いまでも続いている。だいぶ下って文化五年(1808年)に鍵屋の番頭がのれん分けして両国に店を構えたのが「玉屋」であるという。本家は鍵屋であり、分家の玉屋はその後失火により江戸所払いとなっている。しかし、これほど玉屋が唄われているのは、どこか庶民に人気があったのであろう。現在も活躍している音曲師の柳家紫朝は大津絵の「両国」を唄うとき、
さー、あがったあがった、玉屋ぁ〜 というところを敢えて あがったあがった、玉屋、鍵屋ぁ〜 と唄っている。紫朝師一流のごだわりといってよい。

 小唄には花火にお酒をあしらった、やや色っぽいものもある。、

月はさゆれど心もいつか 晴れてのんきな酒(ささ)きげん
よいよいよいよいよいやさ 隅田川辺にちょと舟とめて
簾(すだれ)の中はさし向い しどけなりふり膝にもたれてにっこりと
水にうつろう星下り

 花火の晩に屋形船を仕立てて、好いた同士がさしつさされつ、ハチの喧嘩ではないが、酌み交わすお酒はまた格別であろう。

 星下りも流星も花火の名前であるが、いまのように丸く開く花火ではない。まぁるい花火が打ち上げられるようになったのは明治7年以降であるという。赤や青の色彩が加わったのはさらにその後であり、江戸の花火はかなりあっさりとしたものであったようだ。

 江戸時代から続いた両国の花火は昭和37年に交通混雑のため禁止された。隅田川花火大会と名前を変えて復活したのは昭和53年であり、いまでも毎年七月の最後の土曜日に行われている。ことしは7月26日が当日である。

 最後にもうひとつ、両国の花火にちなんだ小唄を聴いていただきたい。

今日は両国で 仕掛けの花火が 船の中から オッヒュラヒュッと
上がったとさ 芸者褄(つま)もって 踊りもって去んだとさ
アア見物ァ橋の上で玉屋ァとさ よいやさ

 あれ、また玉屋だ! 鍵屋さん、ごめんなさい。(昌)

ひとくぎりのご挨拶

 今回の端唄「縁かいな」で、この音曲シリーズは12回になります。毎月1回、1年間かけてお酒に縁のある唄のあれこれを思いつくままに描かせていただきました。以前書かせていただいた落語と違って、直接「お酒」の出てくる音曲はそれほど多くないように思いましたが、それは私がまだまだ、邦楽古典の世界に不案内のためかもしれません。各地の民謡にもお酒がさかんに唄われていますが、またの機会といたします。
 これを「ひとくぎり」として、しばらく間をおいて、また何か季節感のあるものを書かせていただきたいと思います。(筆者敬白)

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