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>>第13回
2004年7月以降のコンテンツはこちら
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お酒と落語のはなし:7月「青菜」
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お酒と落語のはなし:8月「お札はがし」
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お酒と落語のはなし:9月「妾馬」
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お酒と落語のはなし:10月「落語を聴いて、その後落語家を囲んで燗酒を飲む」
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お酒と落語のはなし:10月「試し酒」
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お酒と落語のはなし:11月「一人酒盛」
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お酒と落語のはなし:12月「芝浜」
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お酒と落語のはなし:5月「親子酒」

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お酒と落語のはなし:6月「夢の酒」
日本酒、四季おりおり。
第1回(2003.7.22 updated)

お酒と落語のはなし:7月「青菜」

植木屋さんたいそうご精が出ますな。こちらへ来て少し休みなさらんか。さっきあなたが水を打ってくれたので、青いものの上を吹いてくる風が涼しいな。ちょうど、上方の友人からもらった『柳蔭』という酒があるのだが、あなたもひと口おやんなさい。」

「やなぎかげ、ですか?」
「さよう、関東では『直し』ともいうがな」

「はあ…、これはよく冷えていて、うまい酒ですね」

「いや、さほど冷えてはおらんが、あなたは炎天で仕事をしておったから、口中が熱くなっておるで、それでその酒が冷たく感じるのでしょうな。」

 植木屋の八っつあんがお屋敷で仕事じまい、主人から声を掛けられて縁側で振舞われる。酒は「柳蔭」、肴は「鯉の洗い」だという。ひんやりした酒のあじわい、食べつけぬ鯉の洗い、うつわの底の氷をほおばって思わず奇声を発する。
「いや、この氷はよく冷えてる…」
 「柳蔭」はみりんと焼酎を半々に混ぜたものを京阪地方でそう呼んだのだそうで、江戸では「本直し」あるいは単に「直し」と呼ばれたようである。冷用酒として夏場に飲まれたものである。いまのような冷蔵庫のない時代には、お酒を冷やす方法は水を張った中に徳利を浸けておくのが普通であった。冷蔵庫で冷やした「冷酒」と違って、ほどのよい冷たさである。先斗町「ますだ」の項で紹介されている、樽に張った水で冷やした賀茂鶴を私も美味いと思う。

「ときに植木屋さん、あなた 『菜』はお好きかな?」
「へえ、菜でござんすか。あっしは菜はでえ好物なんで…。」
「そうか、それはよかった。いま美味い菜があるからご馳走しましょう。これ、奥や」
「お呼びでございますか」
「植木屋さんが菜がお好きだそうだから、ここへ持ってきなさい。」
「旦那さま」「なんだ」
「鞍馬から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官」
「そうか、義経にしておけ…、植木屋さん、これは失礼をしたな。菜はもう食べてしまって、ないそうだ。堪忍しておくれ」

 つまみに「青菜」のおひたしを思いついた主人であったが、奥方は「その名を九郎判官」(菜を食ろうてしまった)と隠し言葉で旦那に伝える。「義経にしておけ」(止しにしておけ)、これまた隠し言葉で応じる主人。お屋敷夫婦の洒落たやりとりに感心しながら、八っつぁんは帰っていく。
長屋に帰った八っつぁんを待っているのは、長屋中に聞こえるような大声で
「いわしが焼けてるよ!いわしがぁ!」
と叫ぶ女房と、夏場でも燗をした徳利の酒。

「なんでえ、またいわしか」
と彼我の違いを嘆く亭主に対して、女房は
「何を言ってるんだぁね、いわしは滋養があって身体にいいんだよ。ごらん、タマなんざ、頭まで食べてるから元気がいいこと

「おれは猫じゃねえ!」

 吹いてくる風だって、青いものの上なんか通らず、掃き溜めの上を渡って生暖かくなってから入ってくるような裏長屋にも、そこそこの仕合せがあったよき時代の酒と肴の話である。(昌)

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